本記事では、マレーシアへの事業進出、マレーシアのビジネス環境と優位性について解説します。
日本から地理的に近い東南アジアは海外進出先として真っ先に候補に挙がります。
最近ではシンガポールの物価高や外国人の締め付けがあったり、日本人駐在員の多いタイでは英語が通じなかったり、そもそもビザの問題があったりで参入障壁は決して低くはありません。マーケットが成長するということでカンボジアやベトナムへの海外進出に人気があります。
忘れてはならないのがマレーシアへの海外進出です。ASEANの中では安定して成長を続けるマレーシアは独特の文化もあり、マレーシアでビジネス展開するには事前に知っておくべきことがたくさんあります。
今回はマレーシアへのビジネス進出を始める前に知っておきたい、マレーシアのマーケットについて、ASEAN諸国と比較した結果をお伝えします。
ASEANの中のマレーシア~人口・経済成長・GDPなどの比較
東南アジアに事業進出するときには、ASEAN5ヵ国(マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ)の中でどの国からアプローチをするのが最善かを考える必要があります。今回は、さまざまな指標でASEAN5ヵ国を比べていきます。
人口の比較
まずはマーケット規模について解説します。
東南アジアのASEAN5ヵ国については、一番多いのがインドネシアの2.7億人。次いでフィリピンが約1億人、ベトナム9,600万人、タイ6,900万人。マレーシアは3,200万人でこのASEAN5ヵ国の中では一番マーケットが小さい国です。ASEAN5ヵ国は出生率も高く、生産人口も多いことから、これから人口増加のボーナス期が到来すると言われています。
今後の東南アジアの人口増加の推移をみてみると、一番増えるのがインドネシアで、続いてフィリピン、ベトナム、タイ、マレーシアとなります。マレーシアはここから急激に人口が増えるわけではなく、安定的に増えていくと考えられます。
また、この5ヵ国の中でも日本と同じように高齢化が進んでいる国がたくさんあります。例えば、タイやベトナムはこれから高齢化社会が到来すると言われています。
一方、マレーシアやフィリピンは人口ピラミッドを見ると富士山型になっており、生産人口が多く、これからの発展が期待できます。
経済成長
つづいて経済成長についてみていきましょう。GDPの成長率の推移をみてみると、ベトナム、フィリピン、インドネシア、続いてマレーシアという順になります。
また一人当たりのGDPは非常に重要です。それは、一人当たりの賃金に直結するからです。一人当たりのGDPがあるので賃金も多く渡せるということです。そのため、事業進出するにあたっては一人当たりのGDPがある程度の金額でなければ、ローカルの方からお金が回収できないということになるので、ある程度の水準のGDPを確保した方が良いでしょう。
実際に一人当たりのGDPをみてみると、マレーシアが断トツトップです。続いてタイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジアと続きます。ベトナムは人口増加もあり、経済成長も見込めるという点で、近年最も注目されている国の1つですが、一人当たりのGDPで考えるとまだまだマレーシアやタイにはかなわない現状があります。
富裕層と在留邦人数
続いて、富裕層と在留邦人数について解説します。
富裕層はマレーシアとインドネシアが非常に多いと言われています。また在留邦人数はタイが多いです。世界でみると一番多いのがアメリカで、カナダ、中国と続きますが、4番目に多いのがタイなのです。マレーシアも韓国に次ぐ在留邦人数で、マレーシアの人口3,300万人のうち3万人は日本人と言われています。
富裕層や日本人がいるということは、ある程度お金を持っている人がいる、と言えます。
人種の割合
一番の注目ポイントが人種の割合です。ASEAN5ヵ国のほとんどが仏教徒ですが、マレーシアは少し特殊です。イスラム教徒のマレー系マレーシア人、仏教徒のチャイニーズ系マレーシア人、ヒンドゥ教徒のインド系のマレーシア人の3種類に分かれます。国の6割がマレー系、つまりイスラム教徒と言われているので、マレーシアで商売をするときには、イスラム教、ムスリムに配慮する必要があります。
マレーシアの市場で押さえたいポイントを以下にまとめます。
1)マレーシアはASEAN5ヵ国の中では、マーケットが最も小さいため、マーケットがたくさんあると勘違いすると上手くいかない可能性がある
2)人口増加や経済成長は安定期に入っているため、爆発的に急成長することはない
3)一人当たりのGDP=賃金が高いため、ASEAN5ヵ国の中では最もお金が払える人たちがいると考えられる
4)富裕層や日本人など、ターゲットをある程度特定してビジネスを展開する必要がある
5)イスラム教の文化への理解がマレーシアでビジネスをするためには一番重要になってくる
マレーシアがビジネスに向いているワケ~良好なビジネス環境
ここからは、ビジネス環境についてみていきましょう。
世界銀行が発表しているDoingBusinessという世界のビジネス環境を比較した指標があり、全てランク分けされています。法人設立のしやすさ、建設許可、電力事情、不動産登記、信用供与、少数投資家保護、納税、社会保険料、輸出入、契約の執行、破綻処理といった項目で評価しています。
ビジネス環境ランキング
東南アジアで1番ランキングが高いのはシンガポールで2位です。国際的にも金融のハブになっていると言われるほど多くの外国人がシンガポールでビジネスをしています。
また、アメリカ6位、イギリス8位と、先進国が多い中でマレーシアは12位と、非常にビジネス環境としては整っていると言えます。日本は29位、中国は31位なので、日本や中国よりも外国人がビジネスがしやすいということです。ASEAN5カ国をみてみると、タイ21位、ベトナム70位、インドネシア73位、フィリピン95位で、フィリピンは世界の半分以下となっています。
ASEANの腐敗認識指数(2021)
次に、腐敗認識指数をみていきます。指数が高ければ高いほど腐敗度が低く透明性が高いと言われています。
ASEANでみてみると、シンガポールは4位と、先ほどのビジネス環境が整っているということもあって当然腐敗はしていません。次いで、マレーシア、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピンという順番になります。他の国では、日本19位、アメリカ25位、中国78位です。マレーシアは62位と、それほど高くはありませんが、東南アジア諸国に比べると腐敗度は低いと言えます。
EF EPI指数(英語力)(2021)
続いて、言語です。一般的には英語で商売ができるとビジネス展開がしやすいと考えられます。そのため、EF EPIという英語力指数が発表されています。「非常に英語が通じる」「英語が通じる」「普通」「英語が通じない」「全然英語が通じない」の5つに分けられてランキングされています。日本は英語が通じない国に該当する78位です。マレーシアは28位、フィリピン18位と英語が通じる国の中のカテゴリーに入っています。
他のASEAN5ヵ国をみてみると、日本と同じカテゴリーに属するのがベトナムとインドネシアです。また、タイも全然英語が通じないということで、現地の言語で話さなければならず、なかなか英語でビジネス展開するのは難しいと言われています。
ビジネス環境
マレーシアのビジネス環境について抑えておくべきポイントは3つです。
1つ目は、世界の中でもマレーシアのビジネス環境は非常に良いということです。2つ目は、ASEANの中では、透明度が高く、腐敗は進んでいないということです。3つ目は、英語が通じるので現地の言語は必要ないということです。これらの理由からマレーシアのビジネス環境は良いことが言えます。
東南アジアへの事業進出でマレーシアを選ぶ理由
最後に、マレーシアの優位性について考察していきます。
地理的優位性
まずは地理的優位性です。世界地図を見てみると、マレーシアはタイ、ベトナム、インドネシア、シンガポール、フィリピンなどASEAN5ヵ国の真ん中に位置します。飛行機でフィリピンからは4時間くらい、バンコクからは3時間くらい、シンガポールなら1時間くらいでいけます。そういったことから、東南アジアの事業進出を考えるのであれば、マレーシアはハブになり得るでしょう。マレーシアで事業展開して他の国に展開するという可能性もでてきます。日本からも7時間ほどで着きます。深夜便も出ているので、夜中に飛んで朝イチ着くというようなこともできます。そのため日本からマレーシアにアクセスして、その他の国々にマレーシアを踏み台として事業展開するということが考えられます。
賃金の水準
続いて、賃金の水準についてみていきましょう。東南アジアなどASEANに進出しようとするとき、従業員の給料が安いから儲かるだろうというイメージを持たれている方も多いかもしれません。しかし、実際マレーシアは一人当たりのGDPが高いため、賃金水準は高く、日本とそれほど変わりません。そのため、マレーシアの人件費が安いから儲かるということではありません。
ハラル認証
そして、マレーシアの1番の優位性になると思われるのがハラルです。ハラルとは、イスラム教徒の方々(ムスリム)が安全に安心に食べてもいいもの、サービスを受けてもいいものなど「許されたもの」のことで、このハラル認証がイスラム教マーケットに行くには必須と言われています。
マレーシアではこのハラル認証を唯一国家機関がしています。そのため、認可には厳格な基準があり、ムスリムには絶大な信用があるのです。また、
マレーシアでハラル認証を受けていれば他の国でもハラル認証が受けやすいというメリットがあります。
実際にマレーシアもハラルハブ政策というものをしており、マレーシアでハラル認証を受けた後、その他の国々でハラル認証を受けてイスラム教のマーケットにリーチできるようになります。そのためマレーシアはイスラム市場への入り口とも言えるでしょう。
マレーシア事業進出まとめ
今回は、マレーシアへの事業進出ということで、マーケットやビジネスの環境、優位性について解説しました。押さえておきたいポイントは3つです。
抑えておきたいポイント3つ
1つ目は、マレーシアのマーケットはそれほど大きくないため、富裕層や日本人などターゲットをしっかり絞ってマレーシアの市場に入っていくのが有効です。
2つ目は、世界屈指のビジネス環境があるということです。英語も通じて、透明度も高いです。さらに言うと、世界銀行が認めた基準で、非常にビジネス環境が良いと言われています。
3つ目は、安定した市場と成長があるということです。急激に伸びることはありませんが、緩やかに経済成長が期待され、人口も増えるでしょう。
注意すべきポイント2つ
まずは、イスラム市場であるということを認識しておきましょう。日本人は無宗教の方が多いので、宗教への理解がそれほどあるわけではありません。そのため、イスラム市場に入るにあたって、事前にイスラム教とは何なのか、彼らが信じているものは何なのか、やってはいけないこととは何なのかなど、最低限調べて事業進出することが非常に大切です。
また、経済やビジネス環境は日本と遜色ありません。一昔前のように東南アジアは賃金も安いだろう、物価も安いだろうということはありません。ASEAN5ヵ国またはマレーシアに事業進出する際は、フラットな立場でマーケットに入っていくことが重要です。
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