本記事では、アメリカ資産が相続資産になったらどうなるかを題材に、海外資産の相続対策について解説します。世界が続々とボーダレスになるにつれ、多くの日本人が海外に資産を持つようになりました。節税目的で海外不動産を購入している方や、アメリカ株やアメリカのETFに投資をしている方も多いのではないでしょうか。それでは、海外資産も持ったまま相続になった場合どうなるのでしょうか。
アメリカで相続になった場合はプロベートになります。本記事ではプロベートの仕組みやフローについて詳細に解説し、最後にプロベート回避のための相続対策について解説します。
英国式の相続税申告のプロベートとは~仕組みとフロー
プロベートとは
相続の手続きのプロベートという言葉を初めて聞いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。日本は包括承認主義という相続の手法をとっていますが、英国系のところは管理生産主義という手法をとっており、管理生産主義の相続の手続きのことをプロベートと呼びます。そのため、非居住者だからプロベートの対象になる、ということではなく、プロベートという相続手続きをとっている国であれば、自国民でも非居住者でもプロベートで相続手続きをしなければならないというルールになっています。
イギリスのルールが世界の参考になっていくため英国系と言われるものの、今回取り上げているアメリカ資産もプロベートという手法をとっています。証券構造や銀行構造や不動産を持っている方もいるであろう香港、シンガポール、マレーシアなど東南アジアの国々もプロベートの手法をとっています。また、オーストラリアやニュージーランド等、オセアニアもプロベートという手法をとっています。
プロベートの流れ
プロベートの流れについて解説します。日本の包括承認手法の流れは、まず一切合切資産を洗い出し、相続するか相続を放棄するかという選択をします。借金が多い場合は相続放棄して終了ですが、相続する場合は10ヶ月の間に相続の税務申告をしなければなりません。
一方で、管理生産主義と言われるプロベートの流れは、相続が発生し、遺言書があるかないかで流れが異なります。
遺言書がある場合は裁判所が「遺言執行人」を承認します。しかし、遺言書と言っても、日本語で書かれた遺言書があれば良いというわけではありません。遺言書は国の規定の書き方でないと認められません。そのため基本的には日本人の遺言書がないというような場合は、裁判所が「遺産管理人」を認定します。遺産管理人たちが、相続する資産がどれくらいあるかを全部調べるため、財産目録を作成したり、債務整理をしたり、誰に相続するかを確定したりします。
さらに、相続税が発生するのであれば、その税の申告も納税もします。
他国の人たちからすると、自分の国にある資産にもかかわらず、非居住者の人が関係ないからと勝手にお金を引き上げてしまうと、相続税がかかるのに取りっ端くれてしまうということが起こるため、簡単には相続人に資産を移さないようにしている、ということです。
ここまでの流れを全部終えた後で、この財産の分配の許可がおり、最終的に分配したということを裁判所に報告する流れになります。
基本的には、日本とアメリカや、日本とマレーシア、香港、シンガポール等と相続の手続きのルールが違うために起きる事柄ですが、要するに、勝手に外国人にお金を持っていかれないようにするための仕組みとも言えます。
絶対にプロベートを回避したい理由
ここまでプロベートについて説明しましたが、面倒に思う方もいるでしょう。
手続きが煩雑になるため、是が非でも回避した方が良いです。
回避した方が良い理由について、具体的にプロベートになった場合に起こる5つの事例を挙げます。
1.長期間にわたる資産凍結
1つ目は、長期間にわたる資産凍結です。日本の場合は、10ヶ月以内にすべて申告し、すべて申告したら終わりという1年にも満たない期間です。
プロベートでは、必ず1年以上、最悪の場合3年くらいかかります。3年待ってる間には、不動産は売れません。所有者が誰か定まってない状況になるため、売却が難しくなります。
さらに、例えば、有価証券等もボラティリティがある中で売れず、何もできないというような状況になります。
2.高額なプロベート費用
2つ目は、高額なプロベート費用がかかることです。裁判所が勝手に遺産管理人を認定しますが、その報酬も払わなければならないため、かなりの金額になると考えていた方が良いでしょう。1万ドル2万ドルは当たり前にかかると覚えておいてください。
3.法務、税務、翻訳など高い専門性
3つ目は、法務、税務、翻訳などの高い専門性が求められることです。弁護士や税理士であっても対応が難しい場合があります。
まずは、国際法などをきちんと分かっている人、その国の相続税法が分かっている人、その中で、税務当局に申告ができる人が必要になります。さらに普通の英語ではなく、すべて専門用語を翻訳をしないといけません。プロベート費用は専門性が高いということで、高額な費用がかかるのです。
4.日本と並行する相続税務申告手続き
4つ目は、日本と並行する相続税務侵国手続きが必要なことです。亡くなってから相続が発生した場合、日本の資産で相続税を算出して、相続財産を洗い出し、さらに保険金の請求などいろいろなことが起こりますが、それと並行してプロベートの手続きも進めなければなりません。日本の相続手続きだけで手一杯であるため、外国に行って相続の手続きも行うのはかなり難しいと言えます。
5.プライバシーの侵害
5つ目は、プライバシーの侵害です。裁判所が関わる相続手続きになるため、必要に応じて公聴会が開かれます。公聴会では「資産はいくらで間違いないですか?」といった質問がされ、自分の財産の金額とか内容が公になる可能性があります。そのため、プライバシーの確保が絶対とは言えません。
知っておくべきプロベート回避のための相続対策
ここからは、海外資産の相続対策、プロベート回避の手法を3つ挙げます。
1.リビングトラスト(生前信託)
1つ目は、リビングトラスト(生前信託)と呼ばれるものです。あまり日本人には馴染みがないのかもしれませんが、相続するであろう財産を生前の時点で信託をしておくというものです。信託とは、相続人と非相続人がおり、その間に管財人という資産を管理する人を事前に設定してしまうということです。
リビングトラスト(生前信託)契約書の中に財産目録が入っており、この財産を誰に何パーセント分けるというのを事前に設定しておきます。それを契約書ベースで管財人が管理しているという仕組みが生前信託です。
一つ注意しないといけないのが、生前信託をする場合は、信託財産になるということのため、厳密に言うと所有の財産ではなくなります。あくまでも信託財産になるという点には注意しましょう。
2.ジョイントテナンシー、ジョイントアカウント(共有名義、共有口座)
2つ目は、ジョイントテナンシー(共有名義)やジョイントアカウント(共有口座)についての対策です。
香港や、シンガポール、アメリカでは一般的ですが、日本の銀行口座で共有口座を作ることができる人は少ないです。アメリカでは、銀行口座を作る際にジョイントアカウントで作るか問われます。そのため、事前に共有口座として、例えば将来相続になるであろう配偶者や、子どもを設定しましょう。
ジョイントテナンシーは不動産の共有名義のことを指します。不動産をそのままジョイントテナンシー(共有名義)にするということは、仮に片方の所有者がいなくなっても、自ずともう片方の所有者に戻るというような流れになります。注意しないといけないのが相続税がかかるという点です。プロベートは回避できるものの、相続税の対策にはなりません。半分はその人のものであり、その人の財産として相続されるため相続税の対象にはなりますが、プロベートの回避という意味では活用できます。
3.死亡時の受取人を指定
3つ目は、死亡時の受取人を指定することです。例えば、保険金同様、死亡保険金受取人を事前に指定します。海外の保険も同様です。さらに、ジョイントアカウントと似ていますが、海外の口座であれば、死亡したときに誰を受取人するかを決定する口座もあります。そのときに将来相続するであろう配偶者や、子どもを設定しましょう。
この3つでプロベートを回避できます。相続税の圧縮のためではなく、海外資産がプロベートに該当し、相続できない状況にならないための解決策ですので、間違えないようにしましょう。
まとめ
本記事では、海外資産の相続対策を紹介しました。最近は多くの方がアメリカで投資しています。日本ばかりで投資するのではなく、アメリカに金融口座をつくったり、シンガポールに証券口座を開いたり、多くの方が海外の金融機関もしくは海外の資産を所有している状況ではないでしょうか。
しかし、仮に相続が発生した場合、かなり大変であるということは覚えておいていただければ幸いです。海外資産の相続対策を忘れず、この国にこのぐらいの資産があるということを家族に伝えてください。そうでなければいざというとき、大きな迷惑をかけてしまいますので、気をつけましょう。
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