米国不動産投資では、火災や自然災害などに備えて保険へ加入することは、重要なリスク管理の一つです。しかし、実際に物件が火災に遭ったとき、「保険に入っているから大丈夫」とは限りません。
今回ご紹介するのは、当社がAsset Manager(AM)として管理に関与していた、米国テキサス州の投資用コンドミニアムで実際に発生した火災事故です。テナントによる偶発的な火災によって住戸は全焼し、そこからオーナー側の保険金請求を進めることになりました。
しかし、PM(Property Management)会社、HOA、保険会社、弁護士など複数の関係者が絡み、解決までには長期間を要しました。本記事では、実際の案件をもとに、米国不動産で火災が発生した場合、海外オーナー側では何が起きるのか、そして保険金請求をどのように進めていくのかを実務の流れに沿って紹介します。
※本記事は実際の案件をもとに構成していますが、オーナーのプライバシーおよび関係者との守秘義務に配慮し、物件名、個人名、保険会社名、保険金額等の一部情報を一般化しています。
投資用コンドミニアムが全焼。保険金請求はここから始まった
火災が発生したのは、テキサス州にある投資用コンドミニアムでした。原因はテナントによる偶発的な火災で、被害は大きく、対象となる住戸は全焼しました。
海外不動産を所有している場合、オーナー自身がすぐに現場へ行って被害状況を確認できるとは限りません。そのため通常は現地のPM会社などを通じて、火災の発生状況、テナントの状況、物件の被害状況、HOAへの報告状況、保険会社への連絡、今後の復旧方針などを確認することになります。
当然、本件でも火災に備えた保険には加入していました。当初は必要な手続きを行い、保険会社による査定を受ければ、保険金請求を進められるものと考えていました。しかし、実際の対応はそれほど単純ではありませんでした。
火災発生から保険金請求までの全体像
本件におけるオーナー側の対応を整理すると、次のようになります。
火災発生
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現地PM・HOAから被害状況を確認
↓
オーナー側の保険会社へ保険金請求
↓
PM会社などから必要資料を収集
↓
HOAのMaster Insuranceとの補償範囲を確認
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保険会社との交渉・追加資料の提出
↓
Proof of Lossなどの必要書類を整備
↓
火災前の物件価値をAppraisalで算定
↓
客観的な損害額をもとに保険金請求
↓
保険金請求の解決へ
こうして並べると、それほど複雑には見えないかもしれません。しかし実務では、それぞれの段階でPM会社、HOA、保険会社、弁護士などから情報を取得し、それぞれの責任範囲を確認しながら手続きを前へ進める必要があります。今回、その難しさを最初に痛感することになったのがPM会社との連携でした。
PM会社との連携停滞で保険金請求が長期化
海外オーナーにとって、現地PM会社は非常に重要な存在です。火災が発生すれば、現場の状況を把握しているPM会社から必要な情報や資料を取得し、それをもとに保険会社への保険金請求を進めていくことになります。
ところが本件では、PM会社からの情報共有や必要な対応が十分に進まず、長期間にわたって保険会社との実質的な交渉を進められない状態が続きました。保険会社側から見れば、損害の内容を確認する資料や必要な情報が揃わなければ、保険金請求を前へ進めることができません。
一方で、海外にいるオーナー自身が米国のPM会社、HOA、保険会社などから必要な資料をすべて取得し、英語で継続的に交渉することも容易ではありません。そこで当社がAMとしてより深く案件に入り、それまでの経緯を整理し直したうえで、関係者との調整を進めることになりました。
誰が何の情報を持っているのかを整理する
本件では、オーナー、AM会社、PM会社、HOA、HOA側の保険会社、オーナー側の保険会社、保険会社側の弁護士など、複数の関係者が存在しました。問題は、すべての情報を一人の担当者が持っているわけではないことです。
PM会社が持っている資料、HOAが持っている資料、保険会社が求めている資料、オーナー側で準備しなければならない資料を整理し、「現在、保険金請求はどこで止まっているのか」「誰から、何を取得すれば次へ進めるのか」を一つずつ確認していきました。海外不動産AMでは、こうした関係者間の情報の交通整理と進行管理が重要な仕事になります。
保険金請求が長期化するなかでは、保険会社側の弁護士との直接協議も必要になりました。実際に行ったRemote Meetingは3時間以上に及び、火災発生からそれまでの経緯、物件の状況、HOA側の対応、保険契約、提出済みの資料、不足している資料などを一つずつ確認していきました。
さらに海外不動産特有の問題が時差です。米国側の保険会社や弁護士の営業時間に合わせれば、日本やアジアでは深夜や早朝になることがあります。重大な保険金請求では、必要に応じて米国側の時間に合わせて対応しなければなりません。
保険金請求で求められた損害の立証とProof of Loss
保険会社へ火災を報告すれば、それだけで保険金が確定するわけではありません。本件でも、火災の原因、不動産の所有関係、Lien(担保権)等の情報、他の保険契約の有無、修繕・再建に関する情報、家電等の損害、賃料収入に関する情報、Fair Rental Value、HOA側の保険金請求、HOA側のRepair Scopeなど、さまざまな資料が求められました。
つまり、火災が発生したという事実だけではなく、「その火災によってオーナーにどのような損害が発生したのか」を資料によって客観的に説明する必要があります。
Proof of Lossには認証手続きも必要だった
特に重要だった書類の一つがProof of Lossです。Proof of Lossは、保険事故によって発生した損害について、被保険者側から保険会社へ正式に申告するための書類です。
本件では単に書類へ署名して提出するだけではなく、署名について認証を受ける必要がありました。本来であれば、米国内でNotary(公証)を受ける、あるいは米国大使館等でNotaryの手続きを行う方法が考えられます。
しかし、オーナーが日本に居住している海外不動産では、この手続きだけでも簡単ではありません。そこで本件では日本の公証役場を利用し、必要な認証手続きを行ったうえでApostille(アポスティーユ)を取得し、保険会社へ提出しました。
火災そのものとは直接関係のないように見える手続きですが、こうした書類対応ができなければ保険金請求を前へ進めることができません。海外不動産の保険金請求では、保険や不動産だけでなく、国をまたぐ文書認証の実務まで必要になる場合があります。
コンドミニアム特有のHOA保険との切り分け
今回の保険金請求を複雑にしたもう一つの理由が、対象物件がコンドミニアムだったことです。コンドミニアムでは一般的に、HOAが加入するMaster Insuranceと、各Unit Ownerが加入するInsuranceが存在します。
そのため火災が発生したからといって、「損害のすべてをオーナー側の保険会社へ請求すればいい」とは限りません。
HOAのMaster Insuranceはどこまで補償するのか
建物の構造部分や共用部分などについては、HOAのMaster Insuranceが関係する可能性があります。一方で、Unit内部、家電、オーナー側の責任範囲、賃料収入の損失などについては、オーナー側の保険が関係する場合があります。
どちらが何を補償するかは、HOAの規約やそれぞれの保険契約によって異なります。したがって本件でも、HOA側の保険で何が復旧されるのかを確認しなければ、オーナー側の保険会社へ最終的に何を請求すべきなのかを確定できませんでした。
つまり、二つの保険を別々に考えるのではなく、両者の補償範囲を照合する作業が必要だったのです。
このHOA側のMaster Insuranceと、その後の建物復旧については、オーナー側の保険金請求とは別の大きな問題となりました。
HOAによる保険対応、Special Assessment(特別徴収)、約1年半に及んだ再建工事については、以下の記事で実際の復旧プロセスを詳しく紹介しています。
Appraisalで損害額を立証し、保険金請求を解決へ
長期間にわたって保険会社との交渉を進めるなかで、最終的に重要になったのが、「全焼する前、この不動産にはどれだけの価値があったのか」を客観的に示すことでした。
全焼した物件を前にして、「この物件にはこれだけの価値があった」とオーナー側が主張するだけでは、損害額の十分な根拠にはなりません。そこで本件では、第三者によるAppraisal(不動産鑑定)を取得しました。
「損をした」ではなく「いくらの損害なのか」を証明する
Appraisalを利用する目的は、火災前の物件価値について第三者による客観的な評価を取得することです。保険金請求では、「大きな損害を受けた」という主張ではなく、「客観的な資料から、この損害額を算定できる」という状態を作ることが重要になります。
本件ではAppraisalによって火災前の不動産価値を算定し、その評価を保険金請求における損害額を整理するための重要な資料として使用しました。もちろん、Appraisalの評価額がそのまま保険金になるわけではありません。
実際の保険金は、保険契約の補償範囲、Limit、Deductible、HOA側の保険による補償など、さまざまな条件によって決まります。重要なのは、第三者資料によって損害を立証できる状態を作ったことです。
長期化した保険金請求をどう解決したか
今回の保険金請求では、火災発生後すぐにすべてが順調に進んだわけではありません。PM会社との連携が十分に進まず、保険会社との交渉が長期間停滞しました。
そこからAMとして案件に深く入り、PM・HOAからの情報収集、保険会社との交渉、保険会社側弁護士との協議、Proof of Loss等の書類整備、日本での認証・Apostille取得、HOA保険との補償範囲の整理、Appraisalによる物件価値の算定と、一つずつ問題を解決していきました。
そして最終的には、Appraisalによって算定した火災前の不動産価値を重要な根拠として損害額を整理し、保険金請求を解決へつなげることができました。火災が発生した当初から考えれば、非常に長い対応でした。
しかし、途中で保険金請求を諦めてしまえば、海外にいるオーナーが大きな損失を抱える可能性もありました。必要な資料を集め、損害を客観的に立証し、関係者との交渉を最後まで続ける。非常に地道ですが、それが今回の案件を解決へ導くうえで重要でした。
この案件から見えた海外不動産AMの役割
今回の案件から得られる大きな教訓は、「火災保険に加入していること」と「事故発生後に適切な保険金請求を行えること」は別の問題だということです。
保険に加入していても、PM会社が動かなければ誰がフォローするのか、HOAから必要な資料が出てこなければ誰が取得するのか、保険会社から追加資料を求められたら誰が対応するのか、といった問題が生じます。
Proof of Lossに認証が必要なら誰が手続きを調べるのか。英語の保険・法律書類を誰が確認するのか。弁護士との交渉が必要になれば誰が参加するのか。そして、その対応が長期化した場合、誰が最後まで案件を管理するのか。こうした問題は、物件を購入するときにはなかなか見えてきません。
米国不動産投資では、物件価格、利回り、エリア、将来の値上がりなどに注目が集まりがちです。しかし、不動産を長期間保有していれば、火災、自然災害、テナントトラブル、HOA問題、訴訟、管理会社とのトラブルなど、さまざまな問題が発生する可能性があります。
そのとき重要になるのが、「問題が起きたとき、誰がオーナーの代理人として動くのか」という視点です。
今回の案件も、「保険に入っていたから解決した」のではありません。PM、HOA、保険会社、弁護士など複数の関係者の間に入り、必要な資料を集め、問題を整理し、損害を客観的に立証しながら、保険金請求を最後まで進めたことで解決につなげることができました。
海外にいながら米国不動産を長期保有するうえで、こうした問題発生時の対応もAsset Management(AM)の重要な役割の一つだと当社は考えています。
Credi Techでは、米国不動産を保有するオーナーのAsset Management(AM)を行っています。現地PM会社の管理から、HOA・保険・修繕への対応、収支管理、売却・資産組み替えまで、米国不動産の保有・運用をサポートしています。


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